■労災 (労働者災害補償保険法) 主に事故が起こった時の、適用範囲について。。。。

   よく、巷で「労災」と呼ばれていますが、身近に感じていない場合が多いのではないでしょうか。
   これは、事業主が加入しなければいけない保険なのです(義務)。
   事故が起こった事を申告をして(給付手続き)、初めて有効になる制度ですので、「知らなかった」では
   当事者や親族の損失は大きくなります。

   ※国家公務員、地方公務員、船員に関して、法律では別の障害補償制度で守られています。
   ※公務員、船員であっても、条件によって労災が適用される(現業の非常勤職員等)事があります。

   (注意)本章はサービス業のサラリーマンが勤めている方を中心に話を進めています。
       他の業種、組織の方も全て網羅しますと、例外事項が多く出てきます。
       出来るだけ例外は記載するように勤めますが、解説不足もあると予想されますので、
       あくまでも概要を知るという観点でご覧下さい。

   ◆この制度の目的は
    1・ 「業務上」、「通勤上」による負傷、疾病、障害(後遺症)、死亡に対して
    2・ 必要な保険給付を行い
    3・ 該当の労働者の社会復帰の促進、その遺族の支援、
    4・ 適正な労働条件の確保を図る

    - 目次 -

 会社は労災保険に強制加入です。
 いわゆる労災隠しが社会問題になっています。
 申請できる範囲とは
 具体的な申請手続きは
 相談したい場合は



 (1) えっ、会社で加入は義務なの?

     そうなんです。
     しかし、現実には加入していない事業主も存在し、社会的問題となっています
     1人でも労働者を使用する事業主は、加入しなければなりません。

     ※加入が任意な業種(農業、林業、水産業。ただし法人は除く)や適用除外(国の直営事業、船員など)があります。

     ※事業主が加入していない期間において、事故が発生した場合でも、労働者の救済が目的なので
      事後加入が可能で、それにより労働者への補償が可能になります。
      ただし、今まで加入していなかったのですから、保険料額や、加入後の脱退不可能期間の設定など
      事業主側にペナルティが課せられます。

    ■なぜ、義務なの?

     加入をしない場合は、労働基準法により業務災害に対して、使用者に補償責任が発生しますが、
     多額の債務補償が発生した場合に、会社の支払い能力の面で限界があります。
     また、通勤上の災害は補償対象にならなくなる等の問題があり、労働者が十分に守れない
     危険性があるのです。

     労災は保険ですから、事業主が保険料を支払う事で(一般保険料)、国(政府、一部行政機関)が
     上記「目的」を補償してくれる訳です。また、労災に加入していれば、前記、労働基準法の補償は
     免除されます。

     ※ですから、就職する場合に求職票等で「労災」に加入している会社なのか
      チェックすることを強くお勧めします。

   ■ だれが補償対象ですか?

     「賃金を支払われる者」と法律では、定義されています。
     したがって、常用、臨時、日雇い、アルバイト、パートタイマー等の雇用形態を問わず、適用されます。
     労働者を守る立場を優先していますので、「不法就労者」も含まれます

     ※法人の代表者や役員のように「代表権」をもつ人は、適用されません(労働者では無いからです)。
     ※派遣で仕事をされている方は、派遣元の会社で加入している労災が適用になります。
     ※中小企業の事業主(サービス業は常用労働者100人以下、他条件有り)、
      一人親方(個人タクシー等)、特定作業従事者は、労災適用外
ですが、「特別加入」制度有り。
     ※海外に派遣されている方は(条件があります)も適用外ですが、同様に「特別加入」できます。

 (2) 労災隠し


     事業主は、下記のような理由により労働基準監督署に申告しない、いわゆる「労災隠し」をして、大きな
     社会問題になる場合があります。労災隠しは罰則があります。
     下記のような背景があって、経営者が当事者の申請行為(申請書類に会社の事故証明が必要)
     を握りつぶして申請しなかったり、労働契約を「1人親方」として強制的に契約させる問題が過去ありました。
     ※会社が事故証明を意図的認めなくても申請は出来ます。

       ・労災申請で受理されると、その会社が払う一般保険料額が増えるのを恐れるため。
       ・「一人親方」との契約は、一般保険料算定の計算式の対象にならないので、安く済むから
       ・不法労働者も労災適用できますが、「不法就労をさせた」事による罰則は免れないからです。

       ※不法就労であったことを知らないで雇用していた場合は、罰則はありませんが、「確認行為」
        をせずして、「知らなかった」では罰せられます。

       ※法務省入国管理局 の2002年資料によると、不法就労は男女合わせて、「工員」、「ホステス等接客」
        「建設作業者」の順に多く、これらで約53%(約16000人)も占めています。

      「労災かくし対策について」 (厚生労働省)

 (3) 適用範囲の考え方


     多くの判例があり、それらを参考にして(行政解釈)都道府県労働局、所轄労働基準監督署が適用の判断を
     行います。
     労災は、通勤時に発生する事故(通勤災害)と、業務中に発生しる事故(業務災害)に大きく分けられ、
     それぞれに、判定の考え方があります。

     通勤災害

         ・通勤に通常伴う危険が具体化した場合
            例) 自動車に引かれた、駅の階段から転落した。歩行中にビルの建設現場からの落下物体で
               負傷した。女子労働者が、夜間通勤中引ったくりに遭った。

         ・往復行為が業務に就くため、業務を終えたことによる、業務と密接な関係
            例) 業務終了後、事業上施設内でサークル活動を行い、業務終了後から4時間後、帰宅時に
               事故に遭った場合は、認められない(2時間以内が基準とされています)。

         ・住居
           労働者が住居して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業の拠点となるところ。
           住居の定義、住居と通勤経路の境界の定義もあります。

            1) 途中、会社のシャトルバスに乗車して出勤するする場合は、アパートの「外戸」から(階段は
             範囲内)
             バス乗車するまでが区間になる。(会社が手配したバスの中は、業務災害の範囲になります)
             2) 一戸建ての玄関先は、住居内であるので住居と就業の場所の間とはいえない。
             (公道に出てから適用範囲)。
             3) カプセルホテル、ビジネスホテルは一般的には当てはまらない。
             4) 単身赴任者の住居(月1回以上家族の住む家屋との往復に反復、継続性があること)

         ・合理的な経路および方法
            迂回距離、マイカー、電車等の基準になります。

            1) 共働きの労働者の、相乗りで、出勤先が同一方向の場合、の迂回の許容距離(約450メートル)
            2) 飲酒運転で事故を起こした場合は、「合理的」ではないので、適用されない。

         ・就業場所
            本来の業務を行う場所のほか、得意先へ物を届けたり、会社主催の運動会会場、前記届先から
            直接帰宅す場合の経路が該当します。

         ・業務の性格を有する
            休日、または、休暇中に呼び出しを受けて、予定外に緊急出勤する場合に該当する。

         ・逸脱中断
            逸脱とは、通勤途中において、就業中または通勤とは関係ない目的で合理的経路から反れること
            を示す。
            中断とは、通勤の経路上において、通勤とは関係のない行為をする事。
            この状態と判断された場合の事故は、労災適用されません。
            例) 通勤の途中で、マージャンを行ったリ、映画館に入る場合。デートの為に長時間にわたって
                ベンチで話し込む、手相を見てもらい、経路から外れる場合は、「逸脱、中断」にあたる
                (適用されない)

             ※ささいな行為(これも、判例基準になります)は、逸脱、中断と扱われない(通勤途中と考える)。
              

         ・日常生活上必要な行為
           日用品の購入(惣菜等の購入、クリーニング店への立ち寄り等)、教育訓練(規定があります)、
           学校(定時制高校、2部の大学含む)、病院等で治療を受ける等が相当します。

           例)帰宅途中、経路上の喫茶店に立ち寄り、40分程度過ごした。 =>適用されない


     業務災害

         ・業務遂行性
           労働者が事業主の支配化にある状態
            業務中、出張中、休息時間

         ・業務起因性
           業務と傷病との関係の一定の因果関係
             災害性疾病(事故による疾病)
             職業性疾病(長時間に渡る業務に伴う有害作用が蓄積して発病に至る)  過労死、じん肺 など

           ※過去、過労死の因果関係の証明は、非常に難しく申請が通る(労災認定が降りる)事は非常に
            まれでした。しかし、H13年12月に厚生労働省が、都道府県労働局宛に「脳血管疾患および
            虚血性心疾患」の認定基準を明確化した事で、申請が通る件数が増えてきています。
            疾病範囲、期間、過労時間、環境等が基準となっており、「発症前の1ヶ月ないし6ヶ月間に渡って
            1ヶ月あたり、概ね45時間を越えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が
            徐々に強まると評価できる」などとしています。

           ※ですから、普段から自分の勤怠時間を証拠として自分で管理する事をお勧めします。
            蓄積性の疾病の場合は、過去の証拠が大きな力を発揮します。


 (4) 給付(申請)手続き

   労災の給付手続きは会社が代行している例も多いですが、本来は労働者自身が行う事とされています(注1)。
   代行してもらう場合であっても、以下の流れを知って行動すると、トラブルが少なくなるでしょう。

   注1) 申請するのはご本人やご遺族の方であって、会社がするものではない。

   (A)請求書の入手
     最寄の労働基準監督署や、少し大きな文房具店でも扱っています。
     掛かりつけた病院が労災病院や、労働局の指定病院の場合は、そちらで相談すると良いでしょう。

    ※申請書は会社の総務にある場合もあります。派遣の方は、派遣元で手続きを行います。


     療養保証

      療養補償は「5号様式」で病院から労働基準監督署(労基署)に申請するのが通常です。
      ただし、労災保険を取り扱っていない病院では、本人が「7号様式」で労基署に申請します。

     休業補償
     「8号様式」で被災者本人が労基署に申請します。

   (B)記載事項
     記載された内容が事実である事を証明する「署名、押印」を会社から(事業主証明)、診断書などの証明を
     医療機関からもらいます。
    事業主証明が必要ですが、事業主の拒否や倒産などで取れないときは未記入または、その旨を
    記載すると受け付けてくれます。


    発症(死亡)と業務の因果関係を説明するための「申し立て用紙」を添付できますが、記入欄が小さい事が
    多いので、記入欄に「別紙記入」と下記、詳しく説明した独自の申立書を添付する事ができる
    また、下記「参考」より判定基準などを予め知って資料集めを行う方が良いでしょう。

    会社関係者や友人、医師などが本人が倒れる前の様子や仕事との関係などについて考えを記した「意見書」
    も一緒に提出する方が良い。
    遺族の本人に対する思いや生前のエピソードも意見書に記載しても良いそうです。
    長時間労働などを証明する資料が新たにみつかったら、その都度労働基準監督署に追加提出できます。

    ※ 近くに指定病院等が無かったり、緊急性があり近くの病院へいかざるを得ない場合は、一旦立替払いをして
      後に直接労働基準監督署に請求します(病院で、健康保険は使えないので注意が必要です)

    ※ 一部、朝日新聞 2008年6/21朝刊 「過労死SOSE」を引用しております。

  (D)提出期限
    労災の請求権には時効があり、遺族補償給付は5年,葬祭料は2年を経過すると、無効になります。

 (5)相談したい場合は
  弁護士、社会保険労務士、社労士会、産業医 などで相談が出来ます。
  ただし、「労働者側に立った視点で本気で救済する意欲と、多くの事例を持った」方は、残念ながら
  少ないと個人的に思っています。
  地域的に相談する場が限られている方でも、一度下記の参考をお読みになってから、行動を始める事を
  お勧めします。


 参考資料
 働くもののいのちと健康を守る全国センター 労災の認定基準などさまざまな情報や電話相談ができます。
 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について
 財団法人 労働保険情報センター(RIC)
 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認対策室
 都道府県労働局労働基準部労災補償課
 各労働基準監督署


最近の報道から

◆平成18年
5月31日
  (厚生労働省) 過労による脳・心臓疾患の労災認定、330件に増加
  2005年度に過労で脳・心臓疾患にかかった人などの労災認定状況をまとめた。
  請求件数は869件で前年度に比べ53件増加。認定件数は330件で前年度より36件(12.2%)増え、このうち過労死の
  労災認定は157件。また、働きすぎなどによる精神障害の労災申請は656件で、127件が労災の認定を受けている。
  発表内容

◆平成17年
12月13日
 (朝日新聞: Asahi.com) セクハラによる心の病気、労災認定対象へ
  職場での性的嫌がらせ(セクシュアル・ハラストメント)によってうつ病などの心の病気がおきた場合に、
  労災認定しうるとの見解をまとめ、全国の労働局に通知した。
  これにより、今まで指針が出ていたものの、労働基準監督署に申請しても、受け入れられなかったケース
  が今まで多かった事に対して改善される見込みが出てきた。

 9月22日
  (厚生労働省) 労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化について
   
労災保険の未手続事業主に対する費用徴収制度について、徴収金額の引き上げや徴収対象とする
   事業主の範囲拡大を内容とする運用の強化を決定した。
   厚生労働省としては、労災保険の未手続期間中に災害が発生した場合の費用徴収が大幅に強化された
   ことを契機に、未手続事業主のさらなる自主的な加入促進に繋げていきたいと考えている。
   新たな運用については11月1日から開始することとしている。
   報道内容

 6月17日
 (厚生労働省) 2004年度の「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況」を発表
  脳・心臓疾患の労災認定件数は294件(前年度比20件減少)で、このうち過労死に至ったのは150件
  (同8件減少)となっている。一方、仕事のストレスなどによる精神障害の労災認定件数は130件
  (同22件増加)で、このうち自殺(未遂含む)は45件にのぼる。 報道発表

 1月24日
 (厚生労働省) 労働安全衛生法の一部を改正する法律案
  「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案要綱」を取りまとめ、本日、同審議会に諮問した。
  主な内容として、過重労働・メンタルヘスル対策の充実、通勤災害に対して、単身赴任者、複数就業者の
  対象範囲の拡大
等を盛り込んでいる。 報道発表

◆平成16年
 12月21日
 (厚生労働省) 通勤災害の適用拡大を建議
  労働政策審議会は、2つ以上の仕事を持つ複数就業者の事業所間の移動や、単身赴任者の自宅への
  帰省時に遭う事故なども通勤災害と認めるよう求めている。厚労省では建議に沿い、次期通常国会での
  法案提出に向け法案要綱を作成し、同審議会に諮問する予定。 報道発表

7月5日
 (厚生労働省)
  二重就職者の増加、子供の教育への配慮や持家の取得の増加、単身赴任者 増加等の変化に対し、
  労災保険制度のうち、特に通勤災害保護制度の在り方を中心に検討を重ね、その中間報告が発表された

 6月17日
 (厚生労働省) 2004年度の「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況」を発表
  脳・心臓疾患の労災認定件数は294件(前年度比20件減少)で、このうち過労死に至ったのは150件
  (同8件減少)となっている。一方、仕事のストレスなどによる精神障害の労災認定件数は130件
  (同22件増加)で、このうち自殺(未遂含む)は45件にのぼる。 報道発表



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